∞即是空 第5話 対数微分法はナンセンス

y=xx を微分するとき,対数微分法なるものを用いるよな.やってみてくれ」

「これは楽勝です.logy=logxx=xlogx ですから両辺を微分すると yy=1logx+x 1x=logx+1 より y=(logx+1)y=(logx+1)xx です」

「その通りだけど,これおかしいと思うんだよね.なぜかというと,logy を微分したものが yy ということになっているんだが,これは y が微分可能であることを暗に使っているよな」

「あ…… y の導関数が求まって初めて微分可能っていえるけど,先に y が先行しているから,微分可能だと仮定すると y=(logx+1)xx になるってだけしか主張していないってことをおっしゃりたい?」

「そういうこと.logy を微分すると yy になることは,当然合成関数の微分法に由来する.しかし,合成関数 f(g(x)) の微分は,fg が微分可能である場合に使うことができるわけだから,y が微分可能か否かが分からない場合には使用できない.似たような話で,an+1=2an-3 という漸化式で定まる数列が α に収束したと仮定すると α=2α-3 より α=3 となるが,実際は正の無限大に発散する」

「なるほどねえ.これは確かに盲点でした」

「だから微分可能であると分かっている関数に対して対数微分法を実行するのは構わないといえば構わないが,微分可能であると分かっているということは,導関数はもう明らかになっているはずだから,対数微分法をする必要はないわけだ.結局,対数微分法に価値はないということだ」

「だったら xx はどうやって微分するんですか?」

log の定義と合成関数の微分法を用いるだけさ.y=xx=(elogx)x=exlogx を微分すると,y=(exlogx)(xlogx)=(logx+1)xx でおしまい.なにか難しいところある?」

「ないです.むしろ,等式変形しなくてすむから簡潔ですね」

「対数微分法なるものを学ぶより,(log|f(x)|)=f(x)f(x) という公式から直ちに分かる f(x)=f(x)(log|f(x)|) を公式にすべきじゃないかと個人的に思う.この公式からほぼ一手で (xx)=xx(xlogx)(xα)=xα(αlogx)(ax)=ax(xloga) と書けるからね」

「うわあ.統一的に主要公式を証明できるわけですね.これは分かりやすいかも……」

「どうした?」

「え,いや……あの,先輩も結局 f(x) が微分可能であることを前提として話進めてません? だってその公式は (log|f(x)|)=f(x)f(x) ありきで進めていますよね」

「さすがだな.そのツッコミを待っていた」

「あ,やっぱりわざとでしたか」

「厳密には,log|f(x)| が微分可能のとき,f(x) も微分可能で f(x)=f(x)(log|f(x)|) が成り立つ,という公式になる」

f(x) の微分可能性の問題で,log|f(x)| が微分可能であることを仮定するっていうのは新鮮ですけど違和感ありますね」

「それには俺も同意する.ちなみに証明は,f(x)>0f(x)<0 のときで場合分けして,さっき俺がやってみせたように f(x)=elogf(x) といった変形をして微分すればよい.ところで対数微分法の弊害として,f(x)=0 の場合はどうするんだという話もある」

「あ,それそれ.私も気になっていたんですよ.実際この教科書でも y=(x-1)2x+23 を対数微分法で y を求めていますが,x=1 は除かなくていいのかなって」

「大学生のお前はもちろん,x=1 の場合も成り立つ理由は知っているんだよな?」

「えっとー……」

「やれやれ.まだまだ勉学に対する心構えがなっておらんな」

「すいません」

f(x)x=a で連続で,ある正の実数 ε に対し a-ε<x<a+ε かつ xa の範囲で微分可能であるとする.その範囲での導関数を f(x)(xa) とするとき,極限値 limxaf(x)=α が存在するならば,f(a)=α である,という定理がある.実際証明してみよう.平均値の定理を用いると f(x)-f(a)x-a=f(c) を満たす cax の間にある.xa とすれば,ca となるので,微分係数の定義より左辺は f(a) に,条件より右辺は α に近くから f(a)=α となる」

「ええ,つまりー,この定理によって,f(x)=(x-1)2x+23 を対数微分法をする場合,x1,-2 なる範囲において絶対値をとって対数微分法を実行し,ひとまず f(x)=(7x+11)(x-1) 3(x+2)23(x1,-2) を得るわけですよね.そして limx1f(x)=0 だから,その定理を用いることで,f(1)=0 がいえるので f(x)=(7x+11)(x-1) 3(x+2)23(x-2) が結論できるってことですか?」

「その通り.ここまでして高校生に対数微分法を教えたいですか? って話だ」

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