∞即是空 第6話 極限計算に物申す

「数列の極限の話で limn 1n=0 であるのは直感的に明らかだ.しかし高校生にこの定理の証明は難しい」

「アルキメデスの原理を使うやつですよね」

「そう.根底に実数の連続性が絡むし,このことがなぜ自明ではないのかは,実数が整数と有限小数と無限小数の総称であると認識している高校生には理解も難しかろう.極限が始まると初期段階で anα,bnβ のとき an+bnα+βan-bnα-βanbnαβan/bnα/β(β0) が成り立つといった公式を直感的に説明する」

「厳密には ε 論法が必要ですよね」

「うむ.そして,これらの公式を用いることによって  1n2= 1n 1n00=0 1n3= 1n2 1n00=0 などがいえるからやがて,正の整数 m に対して  1nm0 が成り立つことがいえるので  1n+ 1n2+ 1n30+0+0=0 といった極限計算が許されるようになる.更には n2-1n2+1= 1- 1n2 1+ 1n2 1+0 1-0=1 といった定番の極限にも答えられるようになる.しかし,1/n の極限や,四則演算公式だけでは 1+ 1n1+0=1 といった極限計算は認められないよな」

「あーもしかして,x の連続性を暗に使っている点を指摘しているんですか?」

「そうともいえる.ようは anα のとき anα が成り立っていることを証明せずに用いている」

1/n の極限と同様で,直感的に明らかでしょ,っていう扱いなんでしょうね」

「そうだろうな.その割に教科書では,(rn) の極限を二項定理や不等式を巧みにつかってちゃんと証明している」

「直感的に明らかとしてしまうかどうかの線引きが気になっているんですか?」

「それもあるな.俺の感覚では  1n+ 1n201+ 1n0 は同じレベルの直感的な明らかさがあると思うんだけど,上の極限はどの公式を用いているかを明確化しているのに対し,ルートが絡む方は明らかでしょ,っていう扱いがもやもやするんだよね」

「でも anα の証明には x の連続性が必要だから,数列の極限の段階では触れがたい部分なんじゃないんですか?」

「いやいや.連続性なんて高尚な性質を使わなくても,普通に有理化とはさみうちで証明できる.anα が正である点をふまえれば 0|an-α|=|an-αan+α||an-α|α0 いける.絶対値,はさみうち,不等式の評価と,極限で重要なテクニックを勉強できる良い素材でもあると思うぞ」

「初めて極限を習う生徒にとっては難しいかも知れませんけど,受験期にはほど良い問題ですね.3 乗根なども同様にいけそうですね」

「まあ,ほとんどの理系大学を目指す高校生は気にせずともいいけど,数学科に進もうとする学生はこの点に気づいていないといかんでしょうな」

「う……」

「一つ一つの式変形でなぜそれが許されるのか,そこを注意深く見なければ論文の精読も,自身で新たな定理を導くこともかなわん」

「肝に銘じておきます」

「似たような話でこんなのもある.limn(1+ 1n) 2n2n+1 といった形の極限だ」

「ああ,ありますね.e がからむやつ」

「計算してみてくれよ」

「はい.limn(1+ 1n) 2n2n+1=limn((1+ 1n)n) 2nn+1=e2 です」

「うん.しかし,最後の答えを導く過程で,次の性質を利用している: an>0 で,anα(1),bnβ のとき anbnαβ が成り立つ」

「そうですね.an=(1+ 1n)n,bn= 2nn+1 としているわけですね」

anbn は変数の変数上のタイプだから,等比数列でもないし,n の累乗でもない.当然教科書には書いていない」

「この性質は簡単に証明できるんですか?」

「変数の変数乗がヒントだ」

「ああ! 対数微分法を回避する方法を使えば……ってことですか.つまり…… anbn=(elogan)bn=ebnloganeβlogα=(elogα)β=αβ となります.あ,途中で指数関数と対数関数の連続性を用いています」

「そんなところでしょう.流石にこの議論は連続性に頼った方がよいだろう.ちなみに関数 f(x)x=a で連続ならば,a に収束する任意の実数列 (xn) に対して limnf(xn)=f(a) となることは簡単に証明できるが,その逆を示すには選択公理が必要になる」

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