∞即是空 第10話 同値類で不定積分を定義する*

この話では,大学で学ぶ同値類の知識が必要です.


「これを解決するには,不定積分を集合として定義するしかないと思うし,それが極めて合理的だと思うんだよね」

「もっと集合を使うべき,ってよく言ってますものね」

「今は確か,教科書でも合同式をやっているんだよな.それと同じ発想で,同値関係を考えた方がより数学らしい.適当な定義域上の連続関数全体を全体集合として考える.そして,f(x)g(x) に対して f(x)-g(x) が定数関数になることを f(x)g(x) と表すことにする.これは明らかに同値関係だから,同値類を考えることができる.f(x) を代表元とする同値類を [f(x)] とかく.明らかに [f(x)]={f(x)+cc𝐑} とかける.今,同値類同士に加法と実数倍を [f(x)]+[g(x)]:=[f(x)+g(x)]a[f(x)]:=[af(x)] で定義する.これは代表元の取り方によらない.すなわちwell-definedである.さて,F(x)=f(x) となる F(x)f(x)原始関数と呼ぶことにする.またこのとき,[F(x)] のことを f(x)不定積分といい,f(x)𝑑x とかく.微分して 0 になる関数は定数関数のみであることが平均値の定理より示されるから,f(x)𝑑x は,原始関数 F(x) の取り方によらない.詳しくいうと,G(x)=f(x) とすると G(x)-F(x) が定数関数となるから,同値,すなわち [F(x)]=[G(x)] ということ.つまりこれもまたwell-definedだ.さて,定義より f(x)𝑑x=[F(x)]={F(x)+cc𝐑} と表せる.F(x),G(x) をそれぞれ f(x),g(x) の原始関数,a を実数とするとき,[F(x)+G(x)]=[F(x)]+[G(x)]=a[F(x)] として和と実数倍を定義したが,これを書き換えたものが (f(x)+g(x))𝑑x=f(x)𝑑x+g(x)𝑑xaf(x)𝑑x=af(x)𝑑x だ.適当に積分定数を定めると成り立つなどというわけのわからない等式ではない」

「一般論ではそれで良さそうですけど,具体的に不定積分を表すと x𝑑x={ 1 2x2+cc𝐑} みたいになりますよね.結構面倒くさくないですか?」

「それは否定しないが,“(C は積分定数)”という意味のない注釈を入れるのとどっちが合理的な面倒臭ささかな?」

「とりあえずその表記でいくとして,さっきの exsinxdx はどう解決されるんですか?」

F(x)=f(x) に対して f(x)𝑑x=[F(x)] ということだから,部分積分の公式は (f(x)g(x))=f(x)g(x)+f(x)g(x) より両辺を積分して (f(x)g(x))𝑑x=f(x)g(x)𝑑x+f(x)g(x)𝑑x=f(x)g(x)𝑑x+f(x)g(x)𝑑x より移項して f(x)g(x)𝑑x=[f(x)g(x)]-f(x)g(x)𝑑x が公式となるな」

「ふむふむ.[f(x)g(x)] の部分が,さっきの説明であった f(x)g(x)𝑑x=f(x)g(x)+C-f(x)g(x)𝑑xf(x)g(x)+C に対応しているんですね」

「そうだ.この部分積分の公式より I=exsinxdx=[exsinx]-excosxdx=[exsinx]-[excosx]-exsinxdx=[exsinx-excosx]-I2I=[exsinx-excosx]I=[ex 2(sinx-cosx)]={ex 2(sinx-cosx)+cc𝐑} となる.適当に積分定数を定めるなどといういい加減なものではなく,正真正銘等式の変形だ」

「まあ集合をよく扱う大学生である私たちから見ればすごく分かりやすいですけど,高校生には難しいでしょうね」

「だ,か,ら! もっと集合をやるべきだと思うんだよ」

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